女性靴ブランド「アバルキン」の社長であり、デザイナーも務める美しき青年・ユーリ。自らもブランドアイコンとしてハイヒールを履きこなす彼には、大きな秘密があった――。
『カーストヘヴン』でブレイクした緒川千世さんの、パリのきらびやかなハイブランド業界を舞台にした倒錯的な愛を描くBL『赤のテアトル』をご紹介します。
『赤のテアトル』とは?ストーリーや作者
ユーリ・アバルキンは、亡き母の跡を継いで女性靴メーカー「アバルキン」の社長兼デザイナーに就任した若き経営者。ブランドイメージが売上を左右する昨今、ユーリは自らもアバルキンのハイヒールを履き、ブランドアイコンとしてマスコミの間を颯爽と闊歩する。
しかし、その華やかな見た目の裏に、ユーリは2つの秘密を隠していた。1つは、実際のデザイナーはユーリではなく、そのマネージャーとして付き従っているアダムであるということ。
そしてもう1つ、「アバルキン」の資金や知名度は、ユーリの枕営業によって得られたものであるということ……。
作者は『カーストヘヴン』シリーズで大ヒットを記録した緒川千世さん。2012年4月に『王子の箱庭』でデビューし、2014年には「このBLがやばい!」で2作品同時ランクインを記録するなど、とても人気のある作家さんです。
『赤のテアトル』の魅力
『赤のテアトル』はまず、その表紙に描かれたユーリの、赤いハイヒールを堂々と履きこなす姿に目を奪われるのではないでしょうか。服やソファ、そしてユーリの髪や瞳の淡い色の中で、はっきりとした赤のハイヒールが主役のように目立つ表紙になっています。
それもそのはずで、この『赤のテアトル』は「美しいハイヒール」を中心として展開されていく物語です。ユーリは、痛みを伴うほどに足が変形しようともハイヒールを履き続けています。それは自分のためであり、なによりも愛するアダムのため。
アダムは、執拗なまでに美しいハイヒールを作ることに固執しています。ユーリの母親にその才能を見抜かれた彼はゴーストデザイナーとして登用されますが、次第に彼女のことを疎ましく感じていきます。自分が靴を作るのに、彼女は邪魔な存在である、と……。
美しくハイヒールを履きこなしたユーリを屈服させることに快感を覚えるパトロンたちとの夜は、とても倒錯的。美しさや劣等感、才能の枯渇など、業界に蔓延る光と闇が美しく、そしてせつなく描かれている作品です。
私が『赤のテアトル』を読んだ感想5つ
私が『赤のテアトル』をおすすめするポイントを5つご紹介します。
①美しい容貌でパトロンを籠絡する若きカリスマ経営者・ユーリ
ユーリは、その美しい容貌でハイヒールを履きこなし、表舞台では気高いカリスマ経営者としてその名を馳せています。しかし、まだ中小企業であるアバルキンを大きくするためには資金が必要。彼は、アダムが選んだパトロンと寝ることでその資金を得ていました。
アバルキンを大きくすること、好きでもない男たちと寝ること、足がぼろぼろになってもハイヒールを履き続けること。それらはすべてアダムのためであり、それでしかアダムを繋ぎ止めることができないと分かっているからです。
アダムに必要とされなくなることを極端に恐れるユーリは、自分のミスで招いた窮地を自分の身体を差し出すことで収めようと躍起になります。
美しく聡明で自信に満ち溢れたユーリがぼろぼろになっていく姿を見て、アダムが下した決断は、果たしてユーリの救いになったのか。物語のクライマックスに涙すること間違いなしです。
②ハイヒールに目を奪われて靴職人を志した食えない男・アダム
アダムは若い頃、踊り子たちの足を飾るピンヒールに目も心も奪われ、靴職人になることを志します。アバルキンの靴工場で働き始め、こっそり靴のデザインを描いていたのがユーリの母・ユリヤの目に留まり、彼女の世話係として登用されました。
アダムのデザインはユリヤの名前で発表され、人気を博していきます。そのことに対してアダムは冷静に、自分のデザインは世界に通用するのだと評価しました。美しい靴さえ作れれば、自分の名前が出るか否か重要ではないと考える男なのです。
アダムが心から愛するのは、美しいハイヒール。靴には履いてくれる人が必要で、アダムは自分の靴に見合うのは聡明で気高く、革新的な人間だと考えます。そんな彼が、酒や薬に溺れて衰えてゆくユリヤの次に目をつけたのは、その息子のユーリでした。
すべてはアダムの、美しい靴への執着によって起こったお話。それが悲劇か喜劇かは、最後まで読んでいただければ分かると思います。
③「人をより美しく見せる靴」という言葉に違わないハイヒールの描写
『赤のテアトル』はここまで触れたとおり、美しいハイヒールを中心としたお話です。作中でアバルキンの靴は「人をより美しく見せる靴」と説明されています。その説得力のある靴や足の描写が、この作品をより魅力的にしているポイントの一つです。
つま先のカットを深くすることで、足指の谷間が見えてより官能的に見えるハイヒール。ユーリは枕営業のベッドの上でもハイヒールを脱ぎません。腹ばいに寝そべり、クロスさせた足の先には、アバルキンのアイコンである赤いハイヒールが輝きます。
アダムが酔い、自らのすべてを捧げるほど「美しいハイヒール」に傾倒することが理解できてしまう美しい描写を、ぜひ読んで実感してみてください。
④もう一組の、狂わされた2人。ミハイルとカルロスの大人な関係
番外編では、ユーリの叔父でアバルキンの副社長・ミハイルと、その学生時代からの知人・カルロスの物語が描かれます。カルロスは高級ブランドを何十社も抱える、世界最大のファッション業界企業体・ガルシアグループの代表取締役兼CEOです。
かつて恋人同士だった二人ですが、ミハイルはカルロスと創設した会社のスタッフとコネクションを持って姿を消します。自分が利用されていたことに気付いたカルロスはガルシアグループを巨大企業に育て上げ、ミハイルに復讐できるタイミングを待っていました。
窮地に陥ったアバルキンを救える財力を持っているカルロスは、ミハイルに買収を持ちかけますが、ミハイルはそれを受け入れません。決して折れることのないミハイルにそれでも焦がれてしまうカルロス。
ハイヒールを巡って繰り広げられる、もう一組の”狂わされた男たち”の大人なお話が楽しめるのも、『赤のテアトル』の魅力です。
⑤全員イメージにぴったりなキャスティングのドラマCD
『赤のテアトル』はドラマCD化もされており、こちらもとてもオススメです。ユーリを中澤まさともさん、アダムを濱野大輝さん。ミハイルを山中真尋さん、カルロスを浜田賢二さんが演じられています。
パトロンを籠絡するときの甘い囁きや、アダムといるときはくだけた男性の姿に戻る口調の演じ分けで、ユーリの魅力がより深まっています。アダムは普段のその朴訥な様子が声から表れており、ハイヒールに魅せられうっとりしているときの声のセクシーさは格別です。
飄々としたミハイルや、ダンディでデキる男なカルロスも、聴いて思わず「分かる!」と唸ってしまうぴったりなキャスティング。更に『赤のテアトル』の世界を感じたいと思った際は、ぜひドラマCDもお手にとってみてください。
『赤のテアトル』が読める電子書籍サービスは?
Kindle
イーブックジャパン
ブックライブ
紀伊國屋書店
リーダーストア
まとめ:美しいハイヒールへの執着のため全てを利用する男と、利用されていると知りながらパトロンに抱かれ続ける男の物語『赤のテアトル』
『赤のテアトル』は、女性靴ブランド「アバルキン」の若きカリスマ経営者・ユーリと、ゴーストデザイナー・アダムのお話です。
アダムは美しいハイヒールを作ることに強く執着し、ユーリを利用します。しかし、ユーリは利用されていると知りながらも、アダムを愛するあまり全てに応えようとしてしまい、心も身体もぼろぼろになっていってしまいます。
そんな二人がどんな結末を選んだのか。『赤のテアトル』最後の1ページは美しい1枚絵で描かれています。ぜひ、そこまで読んで、二人の物語の最後を見届けてください。
