作品

映画化された『さんかく窓の外側は夜』の原作者のヤマシタトモコさんとは?

現在ヤマシタトモコさんは、青年誌で活躍されていて『さんかく窓の外側は夜』が映画化されて話題になっています。
実はヤマシタトモコさんBL出身です。最近はあまりBL作品は描かれていないようですが、とてもいいBL作品も描いているので、ぜひチェックして下さいね。

ヤマシタトモコとは?BL作家

ヤマシタトモコさんは、現在は主に青年誌や一般誌で活躍されている作家さんです。デビュー作が、BL 作品だったので、その後しばらくBL作品を描かれていました。今やBLの枠を超えた活躍されています。

画風がリアルで、王子様やめちゃくちゃイケメンが登場するのではなく、現実的な人物が多いです。どこにでもいそうな普通の青年やおじさんの話が多く、男子もイケメンとは程遠く、むさ苦しい雰囲気があります。

独白や、心の中で語る言葉が多く、その言葉一つ一つが詩のように流れていき、漫画というよりは、文学的です。セリフのリアルさ、掛け合いの上手さ、ウェットの効いたユーモア。言葉を綴る上手さは、BL界ではトップレベルではないかと思います。

Hシーンも少なめです。普通の青年が人とは違う性癖に悩んだり傷ついたり、内面の話が多いのでHシーンは必要最低限しかありません。

作品のCD化はないようですが、「さんかく窓の外側は夜」が映画化されました。この作品は、非BLになりますが、BLの要素も少しあります。

ヤマシタトモコのおすすめの連載作品5つを紹介!

ヤマシタトモコさんは、非BLでは長編も沢山描いていますが、BL作品では、短編がほとんどです。
今回は、短編を集めた単行本(コミック)を5冊紹介します。

    ①『くいもの処明楽』
    ②『タッチミーアゲイン』
    ③『恋の心に黒い羽』
    ④『イルミナシオン』
    ⑤『ストロボスケープ』

①『くいもの処明楽』

『くいもの処明楽』は、絵がリアルで繊細で綺麗です。ふんわりとした画風ではなく、青年漫画のような鋭い画風が特徴です。受けの明楽は女好きのエロおじさん、攻めの鳥原はものすごく目付きが悪く、無口な暗い青年です。

話はユーモアたっぷりで、ギャグ漫画にならないギリギリのところにあり、シリアスとユーモアのバランスがバツグンだと思います。1度目に読んだ時は、他のBLと違う作風にかなり衝撃は受けました。

動作がリアルに描かれており、例えば、猫背とか驚いた時の顔や泣き顔とか、実は、その一つ一つの描写が、ものすごく上手いです。主人公たちも今風のイケメンです。

何度も読み返すと、ニヤけたおじさんの明楽の顔になかなか味を感じます。また目付きの悪い鳥原も、ガードレールに座った猫背には哀愁を感じ、腕を持ち上げ時の筋肉など大変美しいのです。

読んでいくうちに、さらに面白味が見えてきて、噛んでいくうちに味の出てくるスルメのような作品です。

ユーモアの中、ゆるく話は進んでいるようなのですが、心の葛藤の揺れ動きの描き方が、とても上手です。

前半は、鳥原に告白された女好きの明楽が、鳥原のことを徐々に好きにはなっていくが、自分がホモになることの怖さ。そして心の葛藤。後半は、明楽が鳥原のことを好きだと言ってくれたが、それが信じられずに、なかなか素直になれない鳥原の心の動き。二人の微妙な気持ちの揺れを現している言葉が、とても素敵です。

Hシーンはありますが、どんどんHをするというよりも、ここぞという必要なシーンに描写が入れられています。Hの時に普通に会話をしていて興奮度は低めですが、キスの時の二人の表情がめちゃくちゃエロいです。Hシーンがなくても、この表情だけで十分だと思います。

短編『フォギー・シーン』はノンケを好きになった苦しさが溢れた作品です。話は甘くなく、二人の関係がどうなっていくのか、どちらにも取れる終わり方をします。

受けの八枝は、同級生の親友、府野に片思いをしています。片思いが苦しいから、二番目に好きな攻めの井西に告白して振られます。八枝が振られた悲しさに涙ダラダラ流しているリアルな表情に、辛さがじんと伝わってきます。

府野は井西の前で泣いている八枝を連れ出すのですが、その後どうなるのかわかりません。このまま二人がくっつくのか、八枝の片思いがこのまま続くのか?余韻を残した終わり方は、ハッピーエンドが好きな人はちょっと辛いかもしれません。

最後の超短編は『リバーサイド・ムーンライト』です。ノンケの30過ぎのおでぶちゃんとHをする妄想するゲイのお話です。8Pという短い話ですが、なかなか面白い話です。

②『タッチミーアゲイン』

『タッチミーアゲイン』は、7編の短編が入っています。7編の中で、私が一番好きな作品は、表題にもなっている『タッチミーアゲイン』です。

攻めの遠田は「強気」「イケメン」、受けの押切は「ヘタレ」「臆病」、二人は同級生です。7年前あった出来事を忘れたように、何事も無かったように接する二人ですが、実はどちらも、あの時のことは忘れてはいません。

もう一度触れて欲しい、大事な言葉を言って欲しいのに、あの事を忘れられていたら、拒絶されたらと思うと、お互いに何も言うことができません。押切がヤンチャな顔をしているのに実は臆病で、心の中で、何万回も同じ言葉を綴ります。心の中の言葉が、詩のように作品の中に溢れてきます。

それまでに読んだBL作品で『タッチミーアゲイン』のように文学的表現をする作品を読んだことが無かったので、驚いたと共にとても感動しました。

苦しくて辛くて、もう友達でいることに限界を感じた押切は、遠田から離れようとします。遠田は、二人にあったことを忘れて自分から離れていこうとする押切を許しません。

7年前と同じように、逃げようとする押切をむりやり押し倒します。再び抱き合ったことで、あんなに悩んだ7年間は何だったのかと思うほど、二人の絡らみあった糸はあっさりと解けてゆきます。

短い話ですが、二人の気持ちを考えると、読んでいるこちらまで苦しく切ない気持ちになるお話です。他の作品も、全て短編ですがどれもテイストが違っていて、それぞれが面白い作品になっています。

他の作品も、攻めが強気のイケメンで、受けがヘタレの強面という、一見攻め受けが反対に見えるところも、ポイント高いです。女装子が攻めで、ガンガンいくという話は『Candied Lemo Peel』です。見た目が強面で怖そうなのに下の名前が『檸檬』という受けの井堂。

『檸檬』という名前のせいで、ずっと悩んできた井堂。唯一『檸檬』という名前を聞いても笑わなかった攻めの英介に、名前の悩みを聞いてもらっていました。
弱った心の隙をついて、女装子の英介に押し倒される井堂。

「お前が上なの!?」と普段は怖い顔の井堂の焦った顔が、とても可愛いです。今ではよく見る、女装子が男らしい男を押し倒す設定です。

最後の描き下ろしで、二人のハードなプレイが描かれていますが、あまりエロさは感じなく、コミカルです。短編で、読みやすい話ばかりなので、ヤマシタトモコさんの作品を読むのが、初めてという方にもいいと思いますよ。

③『恋の心に黒い羽』

表題の『恋の心に黒い羽』は6編の短編が入っていますが、片思いの話がほどんどです。いろいろな片思いの形をヤマシタトモコさんが、とても上手に描いています。

『恋の心に黒い羽』は、ドMが主人公になっています。ドMキャラといえば、エロかったり、極端な性癖があるイメージです。そこをおふざけでオブラートに包み込み、体と心の想いの違いに悩む話です。

受けと思われる二神はドMで、酷い言葉で罵倒されるだけで気持ちよくなります。二神は、おそらく攻めである同僚の中頭に「好き」と告白し続けてます。しかし中頭は二神の告白を信用しません。

理由はあまりにもあっけらかんと汚い言葉で嬲られたいとか、串刺しにされたいとかを口にするからです。中頭にとって、二神からこぼれ落ちる言葉は、軽薄で変態で、とても本気で自分のことを好きだという様には見えないのです。

二神は純粋な恋心がありながらドMという性癖のせいで、背中に黒い羽が生えていると思っています。その黒い羽根はもぎ取ることはできない性癖という自分の体の一部です。好きなのに、本当に好きなのに、性癖のせいで好きな人に好きになってもらえない苦痛。

中頭は、黒い羽根なんてもぎ取ってしまえと言いますが、二神にしてみれば性癖を捨てることもできません。性癖を偽ることはできてもそれを捨てることはできません。しかし、気持ち良さも欲しいから、体は心を裏切って、性癖が暴走してしまいます。

ふざけて汚い言葉を多用しながら、性癖のせいで恋愛ができない苦しい気持ちを見事に描き上げています。Hシーンは一切ありません。が、ここには書けないくらいの汚い言葉満載です。

『悪党の歯』は、ずっと一人の男に片思いしている男の話。しかしこの話は相手の男が出てきません。くたびれた中年の男、唯川は、学生の頃から好きだった男がいました。結局、一度も告白をすることもなく、その男の死が近いことを男の娘から聞かされます。

唯川と相手の男の娘の会話で成り立っている作品です。男の名前さえ出てきません。もちろんHシーンはありません。

『悪党の歯』は、相手の男の娘もとても魅力的です。主役のように存在感のある女性であり、とても魅力的です。

BL作品ですが、話がただの恋愛作品にとどまらずどれも面白い作品です。今のヤマシタトモコさんの原点がここに詰まっています。BLファンばかりではなく、普通に漫画が好きな方にも楽しんでもらえる本だと思います。

④『イルミナシオン』

『イルミナシオン』は新装版が出ており、表紙のデザインが変わっています。。最初の『イルミシオン』の表紙のぐっとこちらを睨んだ顔が、すごく印象深いです。

受けの幹田は「リーマン」「根暗」で、ひとり酒が好きな男です。幹田は別にゲイではないけれど、幼馴染の小矢のことが好きです。それ故に女が抱けず、延々と悩んでいます。

そんな時に幹田の前に現れたのが、攻めの「年下」「健気」な州戸です。いっそ男に抱かれてみようかと思い、幹田は洲戸に抱かれます。小矢のことが好きですが、欲に負けてしまいます。結局、洲戸に抱かれても後悔だけが残り、悩みは募るばかりです。

洲戸は愛想は良くて、誰にでも好かれるけれど誰にも好かれない性格です。今回も幹田のことが好きになったけれど、決して幹田は自分を好きにならないと思っています。誰も自分のことを好きにならない、孤独が埋まらなくて辛くてたまらない。

小矢は、幹田と洲戸が関係を持ったことを知って、自分も幹田のことを抱く!と言います、しかし、いつか終わりがくる関係ならば、何もないまま友達関係を続けたいと幹田は泣きます。そうして問題が解決することなく続く作品です。

『イルミナシオン』は照明とか照らすという意味があるようですが、『イルミナシオン』という題名のランボーの詩集があります。普照らすという意味かもしれませんが、詩集から題名をつけたのであれば、ヤマシタトモコさんの文学的な要因が垣間見えますね。

ヤマシタトモコさんのデビュー作『神の名は夜』という作品があります。青年漫画の文法で描いていると、ご自身があとがきで書かれています。萌え処満載の作品です。受けの三ヶ島は「髭」「ヤクザ」「強気」。攻めは三ヶ島の学生の頃からの同級生の須賀で「執着」「狂気」です。

Hシーンが多めで、エロいです。男らしい三ヶ嶋が嫌だ嫌だと言いながらも、流されて須賀に抱かれるのがなんともエロいです。荒っぽい絵とストーリーとエロが見事な三角形を描いていて、短編ではありながら、読み応えのある作品です。

本編はすごいシリアスなのですが、書き下ろしの二人が笑えて、この書き下ろしに救われます。『イルミナシオン』自体が大人向けの作品だと思います。甘いBLにはちょっと飽きたという大人の女性に読んだいただきたい本です。

⑤『ストロボスコープ』

『ストロボスケープ』は、表題の他に短編が2編。あとはエッセイが大半です表題の『ストロボスケープ』は『泣けるBL』というアンソロジーの雑誌に載ったもので、思わず涙してしまうBL作品です。

受けの和は、40代ぐらいのくたびれた中年男で、かたや攻めの連司は20代のイケメンで「世話焼き」「強気」です。

小さな喫茶店の店主の和ですが、父親が亡くなってから20年近く、一人で店をやっています。その店にいつの間にか連司が住み込みで働いていたのです。常連客の誰かが連れてきたようですが、和はよく覚えていません。

和は何の楽しみもなく、潰れないから父親の残した喫茶店をやっているだけで、自分のことも他人のことも何の興味もなく無為に生きています。他人にも自分にも興味がなく、ただぼんやりと毎日を生きているだけの和なので、気が付いたら連司が住み込みで店を手伝っていたという訳です。

連司はそんな和に興味があり、料理を作ったり世話を焼き始めます。そんな連司に対して、和は他人に何の期待もしていないから、連司にも何の期待もしていません。期待しても、それが叶わないことを身に染みて判っているからです。

ゲイで自分に自信がなく、覇気もない疲れ切ったおじさんなのに、連司は和のことを好きになります。「好き」と告白した時の和の表情や動作が切なくて泣けてきます。告白され「切ない」なんてと思うのですが、和の今までのことを考えれば切ないのです。

連司は信じられないと言って泣く和を抱きます。抱かれことによって、和の今まで閉じ込めていた気持ちが、弾けて溢れていきます。言葉も素敵なのですが、うわ~と思ったのが、寝た次の日の朝。ページを捲った時の驚き。色がついています。そのページだけカラーです。

今まで色のついてない世界に生きていた和が、好きな人に抱かれることによって和の世界に色のついた瞬間です。もう、これを見た瞬間、涙がだーと溢れてきました。10年近く前の作品になりますが、最初に読んだ時の感動は忘れられません。まだ読んだことのない方は、本当に読んで頂きたい作品です。

ヤマシタトモコのTwitterアカウントはどれ?

探したのですが、「ヤマシタトモコ」さんのものは、ありませんでした。映画『さんかく窓の外側は夜」の公式のツィーターがあるので、そこに映画の情報が載っているようです。

ヤマシタトモコの公式ホームページは?

ヤマシタトモコさんは、ホームページもありませんでした。いつかヤマシタトモコさんのHPができたら、素敵ですね。

私が思うヤマシタトモコの作品の魅力!

ヤマシタトモコさんの魅力は、BLというジャンルを超えたところにあると思います。一応、BLという括りの中にありますが、心情や繰り出す言葉の使い方など、とても素敵です。

画風も他のBL作品と一線を画た個性的なものです。リアルに描いているので、無精ひげや猫背とか根暗や時には暴力的なところなど、青年誌の漫画のようです。
リアルな画風と反対に、真珠にように貝の中でキラリと光る話はとても素敵です。ヤマシタトモコさんのBLの新作が読みたいな、と思っているのは、私だけではないと思います。またBL作品を書いてもらいたいものです。

まとめ:リアルな絵は鋭く、詩のように流れる言葉を綴るヤマシタトモコさんのBL 作品は、とても素敵です。

ヤマシタトモコさんの作品の話を色々と書いてきましたが、何度読み返しても感動します。

少女漫画に近い画風が多いBL漫画の中にあって、青年漫画のような鋭さやリアルさ、泥くさを描いているヤマシタトモコさんの画風は特徴的です。そして個性的でキラキラ光っています。

言葉もそうです。口からでた言葉は、キラキラ光って頭上で輝きます。悲しみも苦しさも、幸せも、ヤマシタトモコさんが言葉にして、命を吹き込みます。

暗くてヘタレの男が、性癖に悩んでいる男が、死ぬほど愛した男がもうすぐ死ぬという男が、画像ではパッとしない男たちが、ヤマシタトモコさんの言葉によって輝きだすのです。これは他のBL作家さんにはないヤマシタトモコさんだけの魅力だと思っています。

Hシーンはあまり多くないのですが、流し目だとか口元などの表情がエロかったりするし、話がぐっときたりするので、Hシーンがそんなになくても問題はないと思います。本当に素敵な話ばかりを描いているので、ぜひとも読んだいただきたい作家さんです。